泌尿器科の病気~その他
水腎症
(病気について)
左右の腎臓で作られた尿は、尿管という管を通って下腹部にある膀胱へ流れていきますが、この尿管に尿の通過を妨げるものがあると腎臓で作られた尿がせき止められ、通過障害のある部位より上流の尿管や腎臓がせき止められた尿で腫れてしまいます。この状態を水腎症といい、腎臓のある側腹部や背部の疼痛の精査で発見されたり、無症状の場合はCTやエコーなどで発見されます。
(症状)
水腎症は腎機能が低下する原因となるだけでなく、尿が停滞した部分で尿路感染を引き起こし発熱の原因ともなります。また突然通過障害が起きると病側の背部痛や側腹部痛がでますが、徐々に通過障害が起きた場合は無症状の事もあります。
(検査)
水腎症を引き起こす通過障害の原因は様々で、尿管結石や尿管癌、尿管の狭窄などが原因となるため、水腎症が見つかった場合はCTやエコーでその原因を調べる必要があります。水腎症の状態が長期間持続すると、腎臓が萎縮し腎機能が低下することがあるため、血液検査で腎機能を検査します。
(治療)
通過障害となっている原因を治療することで水腎症は改善します。ただし一旦機能が低下した腎臓は回復しないため、長期間水腎症となっている場合は原因を取り除いても腎機能が回復しないことがあります。
間質性膀胱炎
(病気について)
細菌感染によって起こる一般的な(細菌性)膀胱炎と異なり、自己免疫の過剰状態によって起こるのが間質性膀胱炎です。細菌による炎症ではないため尿検査を行っても細菌は検出されませんが、膀胱の炎症により一般的な膀胱と同じように膀胱の刺激症状があります。間質性膀胱炎はやや女性に多く1万人に1~5人ほどの発症の割合です。経過が長く、内科や婦人科を受診するも改善せず、精神的な問題では、と言われる方もいるようです。尿を我慢したときに下腹部の疼痛が増強するのが特徴です。
(症状)
主な症状は、尿の回数が増える(頻尿)、急に尿を我慢できなくなる(尿意切迫感)、膀胱や尿道に痛みや焼けるような感じ(疼痛)などで、下腹部痛はおしっこがたまってくると強くなり排尿後に軽減、消失することが特徴です。水分摂取を控え尿が濃くなると疼痛が強くなり、逆に水分をとって尿が希釈されると疼痛は弱くなります。一回の排尿量は少なくなるため尿の回数が増え、1日に20~30回もトイレに行かなければならない方もいます。食事や環境、ストレスなどの影響もあるためこれらの症状は一定しておらず、改善と増悪をくり返しますが、コショウや唐辛子などの香辛料や、果物などカリウムを多く含む食品を摂取すると症状が悪化すると言われています。
(検査)
尿検査を行い尿中に出血や細菌や白血球がないか確かめます。尿中に白血球が一定数以上存在し細菌も検出する場合は、一般的な急性膀胱炎の可能性があり抗生物質で治療します。実際にトイレで排尿してもらいその勢いや量を調べる「尿流測定検査」を行います。また排尿後にどのくらい膀胱内に尿が残るかをエコーで測定する「残尿測定」をして、膀胱機能が正常かを調べます。ご自宅で排尿の時刻と排尿量を記録してもらい、一回の排尿量や排尿の回数が多くなる時間などを確認させて頂きます。膀胱のカメラの検査を行うと、間質性膀胱炎では粘膜の出血や潰瘍など特徴的な所見があるため、診断には必要な検査です。またこの検査で膀胱癌や膀胱結石など、他の疾患を除外することもできます。
(治療)
治療は内服治療より開始します。抗アレルギー剤や抗うつ薬などが間質性膀胱炎に有効とする報告があり、これらのお薬を組み合わせて使用します。また、食生活ではコーヒーや香辛料、アルコールなどによって症状が悪化知ることが知られており、これらの食品を避けるようにします。
内服治療でも効果が無い場合は膀胱水圧拡張術をおすすめします。水圧拡張術は、麻酔をかけてから水圧にて膀胱を過進展させ、膀胱壁の血流や神経へ作用することで症状を改善させます。ただ、この水圧拡張でも有効例は50%度で半年程度で症状が再発する症例もおり、複数回の治療が必要になる場合もあります。
陰嚢水腫・精液瘤
(病気について)
「陰嚢水腫」は、精巣の周囲に浸出液が貯留して、陰嚢が膨らんでしまう疾患です。精巣は胎児期にはお腹の中にあり、出生までの間にお腹の中から陰嚢内に徐々に下降し陰嚢内に固定されます。この時、精巣はお腹の中の薄い膜に包まれて下降してきますが、お腹の中と陰嚢の通り道が閉じずに精巣の膜の中に浸出液が貯留するのが小児の陰嚢水腫です。生まれたばかりの男の赤ちゃんでは高頻度に認めますが、成長とともに消失していきます。成人の陰嚢水腫はお腹の中との交通はないものの、年齢とともに精巣周囲の膜から浸出液がでて徐々に溜まり、陰嚢が大きくなっていきます。
「精液瘤」は、成人男性に発症し精巣や精巣上体の周囲に精液の入った袋状の腫瘤ができる病気です。大きなものでは外見からは陰嚢水腫と区別が難しい事もあります。
(症状)
一般的には疼痛はありませんが、大きい陰嚢水腫や精液瘤では不快感が出現する事があります。強い疼痛は精索捻転や感染症の可能性があり、即時の泌尿器科受診をお勧めします。陰嚢水腫、精液瘤、いずれも腫瘤は弾力性があり触るとやわらかく感じますが、浸出液が緊満した状態では硬い腫瘤として触れることもあります。
(検査)
エコーで陰嚢の内部の状態を確認します。ソケイヘルニアなどでも陰嚢が膨らんでしまうため、エコーではそれらの疾患と区別することができます。陰嚢水腫や精液瘤では、陰嚢内部に浸出液が貯留しているのが確認できます。
(治療)
新生児や乳児の陰嚢水腫は、経過観察で問題ありません。水腫はお腹の中とつながっているため、泣いた時など腹圧がかかった時に大きくなり腹圧が緩むと小さくなりますが、成長とともにお腹との交通がなくなるため消失します。ただし、3~4歳になっても消失しない場合やソケイヘルニアを伴っている場合は手術をお勧めしますので、治療可能な病院へ御紹介いたします。
成人の陰嚢水腫または精液瘤は、小さく症状が無ければ治療の必要はありませんが自然に消失することはないため、増大傾向のあるものは陰嚢に細い針を刺して内部の浸出液を抜くことができます。またしばらくすると浸出液がたまってくる場合もあるので、くり返す場合は手術をお勧めします。
尿管結石・腎臓結石
(病気について)
尿の中に含まれる成分が腎臓内で結晶化し、それが大きく固まったものが尿路結石です。結石は腎臓内ででき始めますが、最初は小さい結石が徐々に大きくなり腎臓内から尿管・膀胱へ落ちていきます。移動した場所により尿管結石、膀胱結石、腎臓結石などと名前がつけられます。一生のうちに男性では7人に1人、女性では15人に1人が発症するといわれており、食生活や生活様式の欧米化などが関係していると言われています。
(症状)
結石が腎臓に存在しているうちはほとんど症状がありませんが、その結石が尿管に落ちるとわき腹から背中にかけて発作的に激しい痛みが起こります。ただこの痛みは常に激しいとは限らず、重苦しい鈍痛のことだけのこともあります。また結石が膀胱近くの尿管まで下降すると、残尿感や頻尿など膀胱刺激症状として現れることもあります。血尿は多くの方でみられますが、目で見えないほどのごくわずかな血尿のこともあります。また、結石による尿管の閉塞が原因で熱が出ることもあり、この場合は早急に抗生剤の治療などを行う必要があります。
(検査)
尿路結石症の診断には、尿検査、レントゲン検査、CT検査、超音波検査などを行います。尿検査では尿中に血液が混じっていないか細菌が混じっていないかなどを検査します。レントゲン検査やCT検査で、結石の位置や大きさ、個数などを調べることができます。妊娠している女性などレントゲン検査を行えない場合は超音波検査で水腎症の程度などを確認します。
(治療)
小さい結石は水を多くとることや運動によって自然に排出されます。結石を出やすくするお薬や結石を溶かすお薬もありますが、効果は一部の結石に限られます。よって尿路結石の治療は鎮痛剤で疼痛を抑えることが大切であり、坐薬や飲み薬で疼痛を抑えます。
結石が自然排石されない場合は、手術が必要になります。経尿道的尿管結石砕石術(TUL)は、麻酔をかけて尿道から内視鏡を挿入し腎臓内または尿管内の結石を砕きます。また体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は、体外から衝撃波のあててそのエネルギーを結石に集めることで結石を破砕する治療です。結石の大きさや位置、ご本人の全身状態などを考慮し治療法を御相談します。
痛風
(病気について)
血液検査で尿酸値が高値であると「高尿酸血症」といい一般的には「痛風」と呼ばれています。有名な症状は足の親指の関節炎を起こし激痛が出現する「痛風発作」ですが、高尿酸血症は高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病や慢性腎臓病を合併しやすく、これらの疾患と密接に関係しています。
(症状)
尿酸値が高くなると体内に尿酸の結晶ができいろいろな場所で沈着します。有名なものは足の親指の根元に突然痛みを引き起こす「痛風発作」で、足の親指に歩けないほどの疼痛が出現し激痛は2~3日間持続します。1~2週間程度で疼痛は消失しますが、尿酸値をきちんとコントロールしないとくり返すことになります。また、疼痛は足の親指だけではなくアキレス腱、足首、ヒザなどにも出現する事があり、腎機能障害(痛風腎)や尿路結石(尿酸結石)などが出現することがあります。
(検査)
採血にて尿酸値を測定します。尿酸値が7.0mg/dLを超えると「高尿酸血症」といい注意が必要です。高尿酸血症の方は痛風発作などの合併症を予防するためにも自覚症状が無くても治療が必要です。また、血尿があるなど尿管結石も疑われる場合には、CTなどで結石がないか調べる必要があります。
(治療)
痛風発作時には鎮痛薬などで痛みのコントロールを行います。疼痛は1~2週間程度で消失しますが、疼痛が落ち着いたら尿酸値を下げる治療を行います。尿酸値を下げるためには、生活習慣の改善とお薬による治療があります。
生活習慣の改善では、毎日の食事全体のカロリーを抑え、バランスのいい食事を心がけます。また、プリン体を多く含む食品は控えるようにします。プリン体はあらゆる食材に含まれていますが、特にプリン体の多いレバーやエビ、カニ、カツオ、サンマなどの魚介類などは食べ過ぎないようにします。またビールなどにもプリン体は多く含まれていますが、プリン体を含まないビールも発売されています。尿酸値が高い方はアルコールの飲みすぎに注意し、水分摂取や適度な運動も尿酸値を下げるのに有効です。
尿酸値を下げる薬は継続的に飲む必要があります。尿酸値が6.0mg/dL以下になることを目標として、お薬を調節していきます。
勃起障害(ED)
(病気について)
勃起障害(ED)とは、有効な勃起が得られないため満足な性交ができない状態のことです。全く勃起の無い方はもちろん勃起はあるものの勃起に時間がかかったり、勃起しても途中で萎えてしまったりして満足な性交ができない状態も含まれます。年齢を重ねるとEDを発症する方の割合は増えてきますが、EDは加齢だけではなくストレスや不規則な食事、運動不足、喫煙など生活習慣が原因となっていることもあります。また糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病もEDの原因となります。
(症状)
EDの症状は人それぞれですが、「全く勃起がない」「勃起はあるが十分な硬さがない」「勃起が持続しない」など、EDの感じ方は様々です。年を重ねるとEDの割合は高くなりますが、若い方にも発症する病気です。勃起は、陰茎海綿体の血管が拡張し血液が陰茎に流れ込むのが正常な勃起ですが、血管自体に異常があって血液が流れ込まないなどの原因で勃起が障害されます。またストレスなどの心理的な要因や、脳出血、パーキンソン病などの神経系の障害もEDの原因となります。
(検査)
問診でEDの原因(通院中の病気、内服薬など)についてお聞きし、EDの程度を確認する質問表に記載して頂きます。簡単な身体検査や血液検査などで他のEDの原因がないかまた後述する内服薬による治療に問題がないか調べることもあります。受付でお話していただかなくても、問診票にその旨を記載していただければ診察室内で詳しく病状をお聞きします。
(治療)
治療はPDE5阻害薬と呼ばれるお薬の内服薬治療が主体になります。性交渉の前にこのお薬を服用することで、勃起を助ける作用があります。これらのお薬は、催淫剤や性欲増進剤ではなくあくまで勃起を助けるお薬ですので、内服後も性的な刺激が無ければ勃起は起きません。またこのお薬は、血圧が不安定な方、脳梗塞、心筋梗塞を起こしたことがある方、重度の肝機能障害、心不全などがある方は服用することができません。狭心症のお薬などとも合わせて飲むことはできませんので、処方をご希望の方は飲み合わせの悪いお薬がないか他院からの処方薬を確認させて頂きます。これらの薬剤は、正規のルート(医療機関)以外で入手した場合、偽造品の可能性があります。偽造品では有効成分が少なく複数の不純物が含まれているものもあるため、思わぬ健康被害の発生も報告されています。
不妊症
(病気について)
不妊症の一般的な定義では、「結婚した夫婦が避妊を行わずに通常の性交を行うも、1年以上赤ちゃんができない状態」とされています。不妊症の原因は、女性側、男性側、その両方の場合がありますが、男性側の不妊の原因は精子の生成に問題がある「造精機能障害」、精子の通り道に異常がある「精路通過障害」、性交に問題のある「性機能障害」の3つに分かれます。この中では、造精機能障害がもっとも多く、全体の80%を占めます。
「造精機能障害」の原因としては、原因がわからない特発性の他に精索静脈瘤やホルモン異常、染色体異常などがあります。精索静脈瘤は陰嚢の静脈の血流うっ滞により陰嚢温度の上昇や精巣の低酸素状態となり、造精機能障害がおこるため不妊の原因となります。「精路通過障害」では、パイプカット手術、鼠径ヘルニア手術の既往、精巣上体炎などが原因となります。これらでは精子を精巣から尿道へ運ぶ精管という管が閉塞してしまい、精液中に精子が出てこなくなります。また、勃起障害など性交がうまくいかない「性機能障害」も不妊症の原因となります。
(症状)
精索静脈瘤では、陰嚢皮膚に拡張した静脈のこぶができ、陰嚢の疼痛も出現することがあります。静脈瘤によって陰嚢温度の上昇や精巣の低酸素によって精子の働きが落ち不妊の原因となります。精索静脈瘤は寝た状態でははっきりしなくても、立位で出現することもあります。染色体異常ではクラインフェルター症候群が多く、不妊症のほかにも高身長、女性化乳房などが特徴的な所見です。
(検査)
不妊症の検査では精液検査が必須です。精液の採取は適切な禁欲期間ののちに自宅で精液を採取して持参して頂き、精液の量や性状、精液中の精子数やその運動率などを測定します。通常は複数回の検査でその平均値で測定します。精液は時間がたつと運動率が低下するため、1時間以内の持参が望ましいとされています。精液量や精液の質は変動があるため、1回の検査では判断せず複数回行って平均をみることもあります。精液検査で精液中に精子が全く存在しない「無精子症」の診断となった場合は、造精機能障害なのか精路通過障害なのかを判断するためにホルモンの採血などを行います。
(治療)
精液検査にて十分な精子数があれば、排卵に合わせて性行為を行うタイミング法などから治療を開始します。しかし精液検査にて精液中の精子が少ない(乏精子症)、または存在しない(無精子症)場合は、排卵に合わせて性行為を行うタイミング法だけでは難しいこともあり、人工授精が可能な病院を御紹介させて頂きます。精索静脈瘤が不妊の原因となっている場合は、静脈瘤を手術することで精液所見が改善することもありますので、手術が可能な病院を御紹介させて頂きます。勃起不全などの性機能障害では、勃起不全改善薬などが治療薬となります。
男性更年期
(病気について)
更年期障害は女性だけではなく男性にも起こります。閉経によって女性ホルモンが減少しホルモンのバランスが崩れるのが女性の更年期障害ですが、男性も加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下により、様々な合併症、健康状態の低下などがおこります。男性ホルモンの低下し始める40歳以降で起こりやすくなります。
(症状)
男性ホルモンは筋肉や骨を丈夫にして認知能力を保つ働きがあるため、このホルモンが減少するといらいら感、不安感、抑うつ気分など精神的症状、不眠、多汗、疲れやすいなどの身体症状、性交回数の低下や性欲の低下など性機能の症状が起こります。
(検査)
問診と血液検査で診断を行います。問診では身体や精神症状、性機能の状態などをお聞きします。血液検査ではテストステロン値の測定を行いますが、男性ホルモンの値は時間によって変動があるため午前中の採血が推奨されています。
抑うつ症状などで精神神経科にてすでに治療を受けられている場合は、内服薬の種類によっては男性ホルモンの低下を来たす場合があるので、内服薬の確認も行います。
(治療)
男性ホルモンの低下が認められればテストステロンの注射による補充を行います。一般的には2週間に1回程度の注射でテストステロンの補充を行っていきます。テストステロンの補充は重度の肝機能障害、腎機能障害、心不全、高血圧、夜間睡眠時無呼吸症候群などがある方は受けることができません。また、中等度以上の前立腺肥大症、PSAの値が高いなど前立腺癌の疑いがある場合はテストステロンの補充により前立腺癌を発生させてしまう可能性があるため治療することができません。テストステロンの注射の他にも、漢方薬や運動療法なども効果があるといわれています。これらを組み合わせて治療を行っていきます。