女性・小児の病気
腹圧性尿失禁
(病気について)
くしゃみや咳、笑った時などお腹に力が加わったときについ尿が漏れてしまう尿失禁が腹圧性尿失禁です。ほとんどが女性に起こる病気で、膀胱や子宮、直腸などを支えるため骨盤の底にある骨盤底筋という筋肉群がゆるんでしまい尿道のしまりが悪くなるせいでおこります。自然分娩後などは骨盤庭筋が緩むため腹圧性尿失禁が起こりやすく、また肥満や加齢なども原因となります。この疾患には膣から膀胱が飛び出る膀胱脱、子宮が飛び出る子宮脱を伴うこともあり、あわせて治療が必要になる事があります。男性の腹圧性尿失禁は、前立腺癌や前立腺肥大症の手術後などに起こることがあります。
(症状)
腹圧が加わる咳やくしゃみ、重いものを持ち上げるなどの動作時に尿漏れがおきます。漏れの程度はさまざまで、パンツにしみがつく程度からパッドが必要になるほどと個人差があります。膀胱脱や子宮脱を伴う場合は、膣からピンポン玉のような塊が出てきているのを自分で触れるようになります。
(検査)
まずは尿漏れの程度をお聞きします。どんな時にどの程度漏れてしまうのか尿漏れパッドは1日何枚くらい使用するのかなど、尿漏れの程度にあわせてお薬を調整します。またパッドをあてた状態で実際に歩行や咳など一連の動作をしてもらい、パッドにどのくらいの尿が漏れるかを測定します。排尿状態の検査として実際にトイレで排尿してもらい、その勢いや量を調べる「尿流測定検査」や排尿後にどのくらい膀胱内に尿が残るかをエコーで測定する「残尿測定」にて膀胱機能が正常かを調べます。
(治療)
腹圧性尿失禁は飲み薬で治療することで尿失禁を少なくすることができ、膀胱の刺激を抑えるお薬や膀胱の圧力を下げるお薬で尿漏れを抑えます。また骨盤底筋体操という骨盤底筋をきたえる体操を指導します。仰向けや椅子に座った状態で肛門と膣を締める体操で、効果が現れるまで少なくとも1~2ヶ月かかりますが、ご自宅で簡単にできる体操なので薬物療法などと併用すると効果が高まります。また膀胱脱や子宮脱を伴う場合は、手術を行うことで尿失禁が減少する効果もありますので、落ち込んでいる膀胱や子宮を吊り上げる手術についてご相談いたします。
膀胱脱・子宮脱(骨盤内臓脱)
(病気について)
加齢や肥満、また分娩により骨盤庭筋が弱まり、腹圧から支えきれなくなった膀胱や子宮、直腸が膣から飛び出てきてしまう疾患です。膣よりピンポン玉のような塊が出てきている場合はこの疾患の可能性があります。
(症状)
軽症の場合は疼痛などなく入浴時などに膣から脱出した膀胱や子宮をなんとなく自覚することが多いのですが、重症で脱出が大きくなると脱出した膀胱と下着がすれるので痛みを感じたり出血したりします。排便時にいきんだり、運動後など腹圧がかかったりしたときに脱出がひどくなります。またこの膀胱脱には腹圧性尿失禁を伴う事もあり、咳やくしゃみをしたときなどに尿漏れを起こすことがあります。
(検査)
レントゲン検査で膀胱脱の程度をみます。膀胱脱・子宮脱は排尿障害を伴うことがあり、排尿状態の検査として実際にトイレで排尿してもらいその勢いや量を調べる「尿流測定検査」や、排尿後にどのくらい膀胱内に尿が残るかをエコーで測定する「残尿測定」にて膀胱機能が正常かを調べます。
(治療)
尿失禁に対してはお薬による治療が可能ですが、膀胱脱・子宮脱自体はお薬での治療が難しいため器具を挿入して膀胱や子宮が落ちてくるのをおさえたり、手術などで吊り上げる手術をおすすめする事があります。
夜尿症(おねしょ)
(病気について)
夜尿症(おねしょ)は、夜間睡眠中に目が覚めることなく無意識に排尿してしまう疾患です。小学校低学年で10%前後、高学年でも3%程度にみられ決して珍しい病気ではありませんが、小学校入学前後でも夜尿症が持続している場合に受診されるお子様が多いようです。男女比では男児が女児より3~6倍多いといわれています。
おねしょはお子様の不注意で起こるものではなく、また故意にしているわけでもないため、「夜中におしっこしたくなったらトイレ行きなさい!」と、おねしょ自体を注意しても治ることはありません。ついついお子様を叱ったり育て方が悪かったのではと悩むこともあるかと思いますが、夜尿症はお子様の性格や育て方とも関係が無いためお子様を注意しても改善することはありません。夜尿症の原因としては夜間の尿量の増加や膀胱機能の異常なども指摘されていますが、便秘などの排便のトラブルも夜尿症の原因となります。また御両親が小さい頃に夜尿症であった場合はお子様にも夜尿症が多くなるなど、遺伝的な要因も指摘されています。
(症状)
夜尿症では夜間睡眠中に本人の意思とは関係なく排尿がおきてしまいます。覚醒障害(目が覚めにくいこと)も影響している事もあるため、おねしょをしても本人が気づかず朝まで寝ていることも多くあります。おねしょの量は様々ですが、ほとんどのお子様が布団までしみてしまうほどの多量の尿失禁があるようです。また日中の尿失禁を伴うお子様もおります。
(検査)
おねしょはほとんどが何の病気のないお子様におこるものですが、まれに他の病気が原因で夜中の尿失禁を起こしている場合があるので簡単な検査が必要です。
まずは尿検査で尿に出血や細菌がいないか確かめ、尿中に細菌がいる場合には抗生剤などで治療します。次にエコーで腎臓や膀胱に奇形などの問題がないかも確認します。日中の生活の様子や就寝までの過ごし方、排尿や飲水のタイミング、排便間隔、起床時間や就寝時間など生活のリズムをお聞きします。排尿状態の検査として実際にトイレで排尿してもらい、その勢いや量を調べる「尿流測定検査」や排尿後にどのくらい膀胱内に尿が残るかをエコーで測定する「残尿測定」にて、膀胱機能が正常かも調べます。
(治療)
夜尿症治療の基本は生活改善から始まります。おねしょは年齢を重ねるごとに自然軽快し徐々に少なくなっていきますが、生活指導をはじめとする治療を行う事によって自然経過に比べて2~5倍早く治る可能性が高まります。生活指導は規則正しい排尿、飲水量や時間の指導、便秘の改善など、日常の生活リズムを改善していきます。食事の内容や摂取する水分の種類についてもご説明します。生活改善の実施のみで約2~3割のお子様の夜尿が改善するといわれ夜尿症治療では重要な治療です。また、おねしょの有無をはじめ飲水量や起床時の尿量なども記録していくダイアリー(おねしょ日記)の使用も有効とされています。夜間にお子様を起こしてトイレに行かせる事は、見た目ではおねしょが治ったようにみえますが根本的な治療になってはおらず、起こすのを止めたとたんにまたおねしょが出てきます。むしろホルモンバランスへの悪影響や膀胱容量の低下など、逆に夜間尿量が増えて夜尿症が悪化してしまうこともあるため、夜間にお子様を起こしてトイレに行かせる事は外泊時などの限定した機会にのみ有効です。
数週間生活改善を行っても夜尿が改善しない場合は、お薬による治療や夜尿アラームを用いた治療を開始します。夜間の尿量が多いことがおねしょの原因となっている場合は尿を濃縮する薬剤を使用し、膀胱の刺激でおねしょがおきている場合は膀胱の刺激を抑えるお薬を使用します。また夜尿アラーム療法では、夜尿に反応するアラームを装着し就寝することによっておねしょをしてしまった時にアラームで覚醒させ夜間尿の減少や膀胱機能をトレーニングする方法です。いずれの治療も有効率は70%程度で、夜尿症のタイプに合わせて使用していきます。ただ、おねしょは薬だけを使えばすぐに治るというものではなく保護者の方のご協力も必要であり、どの治療も数ヶ月という長い単位で効果を見ていく必要があります。お子様、ご家族、クリニックが力を合わせて治療を行っていきます。
精索捻転
(病気について)
精巣は精索と呼ばれる血管の束によって血液の供給を受けていますが、その束がねじれて血管が締め付けられることで精巣への血流が途絶え精巣が壊死してしまう疾患です。精巣捻転、睾丸捻転などとも呼ばれます。思春期前後の青少年で夜間などの就寝中に起こることが多く、原因として精巣と精索の解剖学的な異常などもともとの奇形があることが多いとされています。
(症状)
急に激しい陰嚢の疼痛が出現し陰嚢内容が硬く腫れます。疼痛よって嘔気が出現することもあります。疼痛は陰嚢から下腹部まで広がり、下腹部痛として受診するお子さんもいます。
(検査)
エコー検査で精巣への血流を確認します。通常の精巣は精索の血管を通して血流を受けていますが、精索捻転では精巣の血流が消失しています。またエコー検査にて同じく精巣の疼痛が出現する精巣上体炎や精巣付属器捻転と区別することができます。
(治療)
精巣への血流が途絶え精巣が壊死してしまうため、早急な手術が必要です。手術は早いほど精巣を温存できる可能性は高く、一般的には発症から6~8時間以内の手術が精巣を温存できる限界とされています。エコーで血流が確認できない場合はもちろん、疑わしい場合も緊急手術が勧められます。また反対側の精巣も将来的に同じように捻転する可能性があるため、手術時には反対側の精巣も捻転を予防する手術(精巣固定術)を行います。